言の葉の書き上げ

書き上げました

早くこれになりたい「幻覚剤は役に立つのか」(マイケル・ポーラン)

初めに言っておくと、いわゆる幻覚剤、本書で取り上げるLSDや、マジックマッシュルームの成分であるシロシビンには依存性はなく、人体への影響も脳に対して一時的に作用するのみで循環器系へのダメージも無いとされる。アヘンやコカイン、覚醒剤等は依存性が高く毒性も強い全くの別物。

本書ではジャーナリストである著者が幅広い取材、ときには自分でもトリップをすることで調査した幻覚剤の歴史や効果、医学用途、トリップの解釈についての解説がなされる。

深いトリップ中の人間は自他の境界が消えて世界とひとつになるとのことで、これは脳科学的には自己の立ち上げに深く関連するデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の働きが抑制されることによるものと考えられる。また普段DMNによって抑えられていた活動が活発化し、平時より多くのネットワークが形成されることで非日常的な景色が眼前に表れるようになる。うつ病はDMNの過活動状態であるとも考えられ、その他依存性や、終末期患者の実存的苦痛にも幻覚剤は効果があるとされる。

幻覚剤を使用する上で大事なのはいわゆるセットとセッティングで、熟練のガイドに見守られながらセッションを行うことでバッドトリップを防ぐこともできる。

また自らのトリップ、サイケデリックジャーニーについて意味を考察しまとめ上げる作業を通して、スピリチュアル体験に深い意味付けがなされていき、人生を開かせるような教訓も得られる。

幻覚剤は人間の狭小な認識に新たな扉を開かせる。普段の意識がいかなる規定の中に存在しているか理解し、その閉塞感を打ち破ることができる鍵であるように感じられた。

 

本書外の余談

木澤佐登志は幻覚剤が体制による支配の道具となり、資本主義へと吸収されて行くことを危惧している。web連載「失われた未来を求めて」ではCIAが自白剤や洗脳用途でLSDを研究したMKウルトラ計画も言及され、さらには反脱魔術化と再魔術化の違いに着目しつつ、スピリチュアル化、啓発といった幻覚剤使用の新たな方向性と資本主義的な消費との距離感を測っている。

現代思想の加速主義特集に寄せた「気をつけろ、外は砂漠が広がっている : マーク・フィッシャー私論」では、スマートドラッグ等薬物の使用で維持されるこの資本主義リアリズムこそがバッドトリップであるとの見解を打ち出した。

現在まだ法で使用が禁止されている物質の話としては速度が出すぎではという気もするが、実際過去には合法で使用されていた時代があったわけで、当時について研究し考察することには今後おそらく幻覚剤やその他安全な薬物の社会受容が進む中で必要な、重要な知見が得られるだろう。「失われた未来を求めて」はいつごろ書籍化されるのでしょうか。

次はウィリアム・バロウズ「ノヴァ急報」を読もうかな。

 

以上