言の葉の書き上げ

書き上げました

月本十色「2085年の百合プロジェクト」めちゃめちゃよかった

SFマガジン2021年2月号百合特集2021の「2085年の百合プロジェクト」めちゃめちゃ楽しかったです。

長谷敏司BEATLESS』は既読でアナログハックのことも知っており、そして百合がある種の「脆弱性」を突いてくることを自分で意識しているのを踏まえて、それを取り合わせている本作が面白くなりそうな期待は十分でした。(余談ですが2020年に「AIきりたん」を聴いたとき初めて感情に強めのアナログハックを仕掛けられているのを感じて、衝撃でした。)

BEATLESS』は自分がアナログハックを仕掛けられていることを認識した上で、そこから選択を下すことの意味、それによって築かれる道具(機械)と人との絆を描いたボーイミーツガール作品でしたが、この長谷敏司作品の地の文に表されるメタ的な認識と、「2085年~」の百合を意識している女性ナコが百合作品の主人公になっているメタ的な構造がしっくり噛み合っていて、ナコとチカの起業家百合としての未来が最後の強いビジョンへとつながっていくのが気持ちよかったです。

あと特集で色々読んできた後でこれを読むのはやっぱり楽しい。

百合厨の社長ナコに対する副社長チカのツッコミは、そのまま百合特集、百合業界、百合界隈、百合ジャンルに向けてとも読める。

とくに413ページのやりとりがいい。

“「観測者の創造力が増せば、この世の全てが百合よ。」→「……なら、もう百合クラウドなんて要らないんじゃ」”からの

“完成した百合にはね。ただ、認知した行動を百合と感じるまでのラグがある。百合クラウドは、そのラグを限りなく少なくするために必要なの。”

百合が大きな概念へと膨れて、似たものとしてシスターフッドという言葉もある中で、百合の旗印を使用して色々やることの意味。百合はまだ未完成。世界に百合を実装しよう。

特集のトリを飾ったという文脈で作品の元々もつ迫力がさらに異常になっており、百合文芸コンテストからいい作品が出てきてくれたなと思いました。

 

ところで今月号に掲載されていた神林長平戦闘妖精・雪風」の連載が、敵性異星体ジャムとの戦いのために、正体不明の敵ジャムに取材する前段階として戦闘機の機械知性である雪風に取材をかけようという話で、作品間にシンクロが感じられて面白かったです。リディア・クーリィとリン・ジャクスンの共闘関係もよい。

 

以上。