言の葉の書き上げ

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筺底のエルピス 7巻 感想

オキシタケヒコ筺底のエルピス7 ―継続の繋ぎ手―』の感想です。と言いつつシリーズ全体についての印象の話もあります。当然ネタバレしかないです。

7巻は発売日のあとの週末には読み終わってました。

 

・いやー今回も面白かった。理詰めの文章を次々に頭に流し込まれることの快感にうち震える。見たこともないような状況を、思いもしないアイデアで攻略していく。その中でキャラクターの立ち振舞いが際立って輝いているのも素晴らしい。あと数十分で人類の滅亡が確定するときにもにょもにょと人間関係をやっているのも楽しい。

 

・停時フィールドやワームホールゲート、あとは“鬼”なんかのメインの仕掛けに比べれば地味なところなのだけど、細部のSF的な説明が楽しい。宇宙工学、脳の世界認識辞書、干渉光をホログラフィ的に使ったレーザー通信等、情報の密度がうれしい。史実と交わる部分もそうだけれど、虚構に事実が混ざる瞬間に感じる独特な納得感の広がりは、SFや伝奇物を読むときの醍醐味になっている。

 

・これは感想としてまとまってない、ざっくりした印象なのだけど、なんというか、エルピスはシリーズ通して「人格」というものの取り扱いを、色々やってるな、と思う。主人公にしてからが“外挿型心象モジュール”なんてものを操作する人間なわけだし、第二心臓の忠誠心や、“鬼”による殺意、平行時空同位個体間の差など、「同じ人物」の「違う人格」のバリエーションが様々にある。その人物にとっての「核」は何なのか、いろいろ起こる中で残り続けるもの、もしくは抑え込まれたり消えたりしてしまうものとして、それが確かめられてくる。キャラがブレないのは大前提で、繊細かつ大胆な操作がされている。

登場人物の自己認識を追う上での指標の一つとしては、「呼び名」が印象的。たとえば5巻のカナエは、自らの存在をあらためて受け入れるとともに新たな名「星」を得た。百刈圭と平行時空同位個体《ヴォイド》との間には、共有できるような芯は過去の分岐によって存在せず、融合をゆるすことはなかった。「阿黍宗佑」の名は名字と名前それぞれが大切な人から貰い受けた人間性の象徴で、第二心臓を埋め込まれ天のしもべとなった阿黍はかつて奴隷であった頃の「ガオ」へと戻っていたが、燈が解放されて元の名を取り戻した。あと既巻で言えば、外園隆が名を捨ててスティングになりたがっていたこと(2巻)と、ヒルデが《ティン・ガン》と呼ばれるのを嫌って本名を守っている(3巻)のが対照的。そういえばギスランも自分の二つ名を嫌っていて、これはまあしょうがない。

話がまとまらないのでキャラの人格についてはこれくらいで。7巻では霧島さんが、人類に終焉をもたらす者の守護者として不死化された上に仲間への強い殺意まで植え付けられることになって本当に大変だったので、幸せになってほしい。最後に霧島さんを待っていたのがギスラン猊下で本当に良かった。能力もだけど人間として采配が完璧で驚いた。

 

フェルミパラドックスの正体としての殺戮因果連鎖憑依体という世界の闇に対して、朋之浦一家の宇宙に対する憧憬の尊さが光明になっているように思う。次はいよいよ宇宙へと行くのだろうか。天にもたらす福音とは何か。まだまだ新たな仕掛けもありそうで、早く続きが読みたいと思いながら、8巻を気長に待とうと思う。また長くなるのはわかっているけれど、冗談としてめちゃくちゃ無理を言えば来月くらいに読めると嬉しい。待ち遠しく思う。

 

 

・最後に急に違う話をするけれど、去年の4月、新型コロナウイルス流行の話題で持ちきりだったときに、劉慈欣『三体Ⅱ 黒暗森林』の発売告知を見て、「三体文明による侵略の危機。」の文章だけで、なんだかすごい元気になった、ということがあった。エルピス7巻読んでる間もずっと気分が良かったし、架空の人類の危機は精神衛生に良い。

エルピス好きなら三体は読むといいと思います。知名度的には逆か。前も言ったけど三体シリーズが2000万部で鬼滅が1億5000万部なら “「三体」が地球に来て人類がやばいことになるし鬼を滅ぼしもする話” の筺底のエルピスは3000兆部行くはず。SF界の鬼滅、ラノベ界の三体こと筺底のエルピスをよろしくお願いします。よろしくもなにもここまで読むやつがエルピス読んでないわけないだろ。

 

もう眠たいので以上です。面白かった。